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涼宮ハルヒコの憂鬱
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うすらぼんやりとしているうちに学区内の県立高校へと進学してしまったわたしが最初に後悔したのは、学校がとんでもない山の上にあることで、こんな坂道をこれから3年間も毎日昇り降りしなくちゃいけないのかと思うと、暗澹を通り越して憂鬱になった。
入学式が終わって、これから一年間、嫌がおうにも顔を突き合せなくちゃいけない同級生たちの自己紹介が始まり、自分の番が迫ってくる間、わたしはとりあえず過不足のないセリフを頭の中でひねり出していた。
人気者になって青春を謳歌しようという気持ちもないわたしは、自己紹介が無事に終わったのにほっとして席についた。
ガコ。うしろの人が立った。たぶん男子だった気がする。
「東中出身、涼宮ハルヒコ」
やっぱり男子らしい。これから毎日見ることになるので、わざわざ体をひねる気にもなれず、机に肘をついて顔を支えたまま、妙にハキハキした声を聞いた。
「ただの人間に興味はねえ。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、俺のところに来い。以上だ」
さすがに振り向いた。

↑クリックで拡大/画:Hirahito
黒い長髪をなびかせて、クラス全員の視線を一身に浴びて平然と立っている。顔はいい。いやかなりの美男子だ。普段なら、わたしもちょっとは気にしたかもしれない。でもその時のわたしの脳裏を埋め尽くしていたのは、果てしない数の?マークであり、それが泡のように消えて、かわりにやってきたのは“なにこのひと?”ということだった。
まあそんなこんなで、わたしの高校生活はスタートしたわけだけれど、後ろの席の男、涼宮ハルヒコのことが、どうにも気になる。というか、邪魔だ。
この人は基本的に友達を作ろうという意思がないらしい。いつも何かが不満らしく、不機嫌な顔で席に一人でいる。
すでにウェディングケーキの上の毒蜘蛛ぐらいにクラスから浮いていて、女子はこわがって近寄ってこない。男子の何人かも接触を試みたが「俺が自己紹介で言った事を聞いてなかったのか? 普通の人間なら帰れ」と、あっけなくはじき返された。
わたしも別に友達作りに積極的ではないから、休み時間ごとに席を離れて友好の輪を広げようとは思っていないけれど、巻き添えを食ってだれも近寄ってこないのは困る。
それでも同じ中学だった国木田が、やたら社交的な谷口を連れてきてくれて、どうにか孤独を味わなくてもいい程度に話し相手はできた。
「ねえキョン」と昼休みにその谷口が言った。
ちなみにキョンというのはわたしのこと。親戚の叔母がわたしをそう呼んだのを弟が真似して「キョンちゃん」と呼び、それからあっという間に広がった。もう面倒だからそう呼ばせている。昔は「お姉ちゃん」と呼んでいたのに。
「あの人、もてるんだよね」
涼宮ハルヒコと中学が一緒だった谷口が箸を握り締めて言った。

↑クリックで拡大/画:銀杏子
「なんといっても顔がいいし。スポーツ万能で成績も良いほうだし、変人でも黙ってたら、そんなこと分からないしね」
「何かエピソードがあるの?」
と国木田が質問した。
その日の放課後、思い切って涼宮ハルヒコに話しかけてみた。一時的な知的好奇心がわたしを迷わせたというより他にない。
「ちょっと聞いたんだけど」
「なんだよ」つれない返事。
「これまで告白された女の子の全員と付き合って、すべて一週間以内にふったって本当?」
「何でお前にそんなことを言う必要があるんだよ」
ハルヒコは整った顔を向けてわたしを睨んだ。だいたいの生徒はこれで退散するのだけれど、わたしは前の席にいるせいか、他よりも耐性ができていたらしい。
「本当なの?」
「谷口が言ったんだな。なんで高校まであのやかましい女と一緒のクラスなんだよ。まあいいよ。全部本当だから」
「一人ぐらい、まともに付き合おうって人はいなかったの?」
「いない。どいつもこいつもつまんない女ばっかりだ。一緒に下校、公園のベンチ、夜は電話とメール。みんな同じことをしてくれっていいやがる。文部省推薦コースなのか?」
今は文部科学省だけど。まあ、そんなことはいいか。
「宇宙人だったらいいの?」とわたしは訊いた。「夜、一緒に教室の机を全部運び出してくれたりとか、校庭にナスカの地上絵を描くのを手伝ってくれたりとか? そういうのが?」
ハルヒコが大真面目な顔になった。
「まさか、お前、宇宙人か?」
「ちがうけど」
「違うなら何者だよ」
「……何者でもないけど」
「だったら話しかけんな。時間の無駄だ」
やっぱり変な奴だ。あまり関わらない方がいい。それでも最後に、かねがね疑問だった事を質問してみた。
「なんで曜日ごとに髪型を変えるの?」
「気がついたか」
オールバックにしてみたり、結んでみたりしてれば誰だってわかるだろ。
「それって宇宙人対策?」
ハルヒコが目を細めて、鑑定するようにわたしを見た。
「どうしてわかったんだ」
そんな低い声ですごまれても……。
「ちょっと前」
「そうか」ハルヒコは面倒そうに頬付けをついた。
「曜日ごとに感じるイメージは違う。それぞれに色がある。たとえば今日、月曜日のイメージは黄色だ」
「わたしの月曜日のイメージは『だるい』ね」
「お前のイメージなんてどうでもいい」
なんなのよ。あんたは。
その翌日、ハルヒコが長髪を切って登校したときには驚いた。肩まで届こうかとしていた髪が、ごく普通の長さになっている。それでもコイツが『ごく普通』なんてものにおさまるヤツじゃないことは分かっていた。
だからって黄色いカチューシャってどうなのよ。
それもまあ、初めて会話らしい会話が成立したこの日から、わたしはハルヒコに話しかけるようになった。この前のおかげで、会話を成立させるコツもつかんだ。
「全部のクラブに入ったって本当?」
「ああ」
「どっか面白いトコあった? 参考にする」
「全然ない」即答と大きなため息が返ってきた。
「高校なら少しはマシかと思ったけど、運動系も文化系もまったく普通。こんだけあれば、もう少し変なクラブがあっても良さそうなのにな」
「それって何を基準に判断してる?」
久しぶりに思いっきり睨まれた。
「俺が気に入れば変。気に入らなければ普通。決まってるだろ!」
ハルヒコは不機嫌にそっぽを向いた。
「やっぱダメだな。入る学校を間違えた。辞めようかな」
それっきり、何も答えなくなったので、わたしはカーディガンを脱ぎ、帰り支度をして、教室の入り口で振り返った。
ハルヒコはまだ不機嫌に窓の外を見ている。
そんなに変なのが好きなら、バカ田大学付属高校にでも入ればよかったのに。
一ヶ月がたち、待ちに待った席替えの時がやってきた。やっとこの不可思議な生命体から逃れられると思いながら引き当てた席順は、窓際の後ろから二番目。ぼんやりできるナイスポジションだ。
新しい隣人は誰かと振り返ったわたしの目に飛び込んできたのは、いつもの顔、この世には不満しかないという顔つきの涼宮ハルヒコだった。
素敵すぎる。
「スカウターがぶっ壊れるぐらいの戦闘力を隠し持った異星人とか、小宇宙を燃やすような戦士とかはいないのか」
「いないでしょ。たぶん」
「ミステリ研究会ってのがあった」
「へえ。どうだった?」
「笑わせるよ。誰も今まで特別なことには一度も出くわしたことがないって」
「だよね」
「ただのオカルトオタクの集まりだった。どうだこれ?」
「うーん」
「あぁ! つまらん! どうしてこの学校にはもっとマシなクラブがない!?」
「ないんだからしょうがないでしょ」
「高校ならもっとスリリングなサークルがあると思ってたのに」
この人が望むことがさっぱりわからない。地球をぶっ壊すぐらいの力とか、突然、異空間に連れ去られて、敵と戦ったりとか、そういうことが望みなんだろうか。本人もよくわかっておらず、つまりは何でもいいんだろう。
「ないんだからしょうがないでしょ」
わたしは言ってやった。
「結局のところね。平穏無事が一番いいのよ。平穏無事をより平穏に、より無事に変えようとして人は、発明やら発見やらしてきたんだから。特別なことなんて、一部の天才か独裁者とかが起こすことで、わたしたちみたいな庶民には、何にも関係ない――
「うるせえ!」
ハルヒコはわたしの親切心からのお説教を断ち切って、そっぽを向いた。機嫌が悪い。いつものことだけどね。
人は如才なく日常を謳歌してしてれば十分。この人が望むような特別なことなんてこの世には無い。つーか、あって欲しくない。
そうでしょ? わるいね。ハルヒコ。
普通が一番でしょ!
*
この会話が運命の演出でいう、予兆ってやつだったみたい。
それは突然やってきた。
窓から差し込む春の日差しに眠気を誘われ、カーディガンに通した腕に顔をうずめてウトウトしていたところに、突然、背後で音がした。
ガコ。
ほえっ、と顔を上げたわたしは顎と首の境界をつかまれ、恐ろしい力で引っ張られた。夢と現実の境界線をさまよっていたわたしは、突然の事態になすすべも無く、まったくもってされるがままに仰向け同然の体勢にされた。
「……なに?」

↑クリックで拡大/画:まにまに
上下逆さまになった視界に、ハルヒコのまばゆいばかりの笑顔が見える。かつて見たことのない最高の笑顔。ナントカ様だってこんな笑顔は無理だ。
「気がついたぞ!」
唾はやめて。
「なんでこんなことに気がつかなかったんだ!」
ハルヒコは輝く目でわたしを見下ろしていた。しかたなく、そのままの体勢で尋ねる。
「なにに気がついたの?」
「無いなら、作ればいいんだよ! 自分で!」
「なにを」
「部活だよ!」
意識が朦朧としているのは、眠気だけじゃないみたい。
「ほえー。そう。んで、いつになったら手を離してくれるの?」
「なんだよもっと喜べよ! 大発見だぞ!」
「それはあとで聞いてあげるから。場合によっては一緒に喜んでもあげる。だから、今はこの手を離して」
「なんでだよ?」
「授業中だし」
やっとハルヒコが手を離した。抗議をあげる背骨と、唖然としているクラスメイトたちの視線を受け止めた。
わたしは穴があったらお金を払ってでも入りたい気持ちで、俯き、そして誰も見ないようにして両手を前に広げた。
どうぞ、授業の続きを。
ぶつぶつ言いながらハルヒコは席に戻り、教師は黒板に向き直り……。
新しいクラブを作る?
うーん。
まさかあたしにも手伝えなんて言うんじゃないよね。
つかまれた感触が残る首が、よからぬ予感を告げていた。
挿絵協力:まにまに
挿絵協力:Hirahito
挿絵協力:銀杏子
[後記]
適当に思いついたことを^^;
「涼宮ハルヒの憂鬱」の登場人物の性別を全て反転させた「涼宮ハルヒコの憂鬱」です。
動画と文章が違っている箇所がありますが、動画の方が最新版となっています。
基本的に原作者の文章をトレース。他人の文章の真似は発見があって楽しいです。
特に副詞表現を真似するのが楽しかった。
エヴァでもやってみたら面白いかも。と思いましたが、エヴァの登場人物は女性が多い=反転すると男ばっかり。
なので、イマイチかもしれない…
快く画像を提供していただいた三人の絵描きさんにこの場を借りて感謝。
「涼宮ハルヒコの憂鬱」ご感想などお待ちしております!
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